東京高等裁判所 平成7年(ネ)3707号 判決 1995年12月13日
控訴人(被告) 御福洋子
被控訴人(原告) 二重作羊子
右訴訟代理人弁護士 川口均
同 久島和夫
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
本件控訴を棄却する。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 (金銭貸付け)
被控訴人は、木村泰雄(以下「木村」という。)に対し、平成三年二月一九日、次の約定で一〇〇〇万円を貸し付けた。
(一) 利息 年二六パーセント
(二) 遅延損害金 年五分
(三) 弁済期 平成四年二月一八日
(四) 担保 木村所有の原判決別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)について、弁済不履行を停止条件とする代物弁済契約を締結し、その旨の仮登記をする。
2(仮登記)
被控訴人は、右担保に関する合意に基づき、本件土地について、千葉地方法務局成田出張所平成三年二月二〇日受付第三一二六号の条件付所有権移転仮登記(以下「本件仮登記」という。)を経由した。
3(清算金見積額通知)
被控訴人は、木村が右弁済期に弁済をしなかったので、木村に対し、平成六年一一月二六日、公示の方法により、次のとおり、清算金見積額の通知をした。
(一) 清算期間経過時の本件土地の見積額 一〇〇万円
(二) 清算期間経過後の充当債権額 一〇〇万円
(三) 清算期間経過時の清算金見積額 清算金なし
4(控訴人の抵当権設定仮登記)
控訴人は、本件土地について、控訴人を権利者とする原判決別紙登記目録四記載の抵当権設定仮登記を経由している。
5(結論)
よって、被控訴人は、控訴人に対し、本件仮登記に基づき平成三年二月一九日代物弁済を原因とする所有権移転の本登記手続をすることの承諾を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1(金銭貸付け)は知らない。
2 同2(仮登記)は認める。
3 同3(清算金見積額通知)は知らない。
4 同4(控訴人の抵当権設定仮登記)は認める。
三 抗弁(控訴人に対する通知の遅滞)
被控訴人は、控訴人に対し、平成七年二月六日、仮登記担保契約に関する法律(以下「仮登記担保法」という。)五条一項所定の通知(以下「本件通知」という。)をしたが、本件通知は、仮登記担保法二条一項所定の清算期間経過後にされたものであって、仮登記担保法一二条所定の控訴人の競売請求権を侵害したものであるから、効力を有しないものであり、控訴人に対しては、右清算期間は進行していないというべきである。
したがって、被控訴人の控訴人に対する本件本登記承諾請求は、理由がない。
四 抗弁に対する認否
抗弁事実のうち、被控訴人が控訴人に対し平成七年二月六日に本件通知をしたことは認めるが、その余は争う。控訴人は、本件通知が清算期間を経過した後にされたことを理由に、承諾請求を拒むことはできない。また、仮登記担保法一二条所定の競売請求ができる清算期間は、後順位担保権者ごとに個別に解すべきであり、各人に通知がなされた時からそれぞれ二か月間である。仮に、右清算期間が債務者に対する通知から二か月間であるとしても、控訴人は、右通知後ほぼ二か月以上の期間、競売請求できる機会があったにもかかわらず、右通知後二か月以内に何ら異議を述べず、現在に至るまで本件土地について競売申立てをしていないのであるから、仮登記担保権者の本登記承諾請求を認めるべきである。また、本件においては、債務者木村に対する通知が公示の方法という特殊な方法でされているのであるから、期間の計算については、厳格さを要求すべき必要性が減少し、期間経過の点での瑕疵は、より小さいものというべきである。
第三証拠<省略>
理由
一 請求原因について
1 請求原因1(金銭貸付け)の事実は、甲一号証及び弁論の全趣旨により認められる。
2 同2(仮登記)の事実は、当事者間に争いがない。
3 同3(清算金見積額通知)の事実は、甲五号証及び弁論の全趣旨により認められる。
4 同4(控訴人の抵当権設定仮登記)の事実は、当事者間に争いがない。
二 抗弁(控訴人に対する通知の遅滞)について
抗弁事実のうち、被控訴人が控訴人に対し平成七年二月六日に本件通知をしたことは、当事者間に争いがない。
しかし、控訴人は、前記のとおり、本件通知は、仮登記担保法二条一項所定の清算期間経過後にされたものであって、同法一二条所定の控訴人の競売請求権を侵害したものであるから、無効であり、被控訴人の本件本登記承諾請求は理由がない旨主張する。そこで、本件通知の遅滞が被控訴人の本登記承諾請求を排斥する理由となるか否かにつき検討する。
仮登記担保法五条一項は、同法二条一項の規定による通知が債務者等に到達したときは「遅滞なく」後順位抵当権者等に対し同法五条一項に規定する通知をすべきものとしているが、その趣旨は、後順位抵当権者等が清算金に対する物上代位又は同法一二条の規定による清算期間内における競売請求の機会を失することのないようにするためであると解される。本件においては、清算期間が経過した後に、本件通知がされたのであり、このために控訴人の主張するように同法一二条の規定による競売請求ができなかったものかどうかはしばらく措き、右の趣旨からすれば、本件通知は、同法五条一項の規定に反する違法なものというべきである(なお同法一五条参照)。被控訴人は、同法一二条の規定により競売請求ができる清算期間は、各後順位抵当権者ごとに個別に解すべきであるとするが、清算期間の概念は同法二条に定められているところであって、後順位抵当権者ごとに別異に解すべきものとする根拠はない。
しかしながら、右のように本件通知が違法なものであるとしても、これを理由に後順位抵当権者等が仮登記担保権者(債権者)からの本登記承諾請求を当然拒むことができるかどうかは、おのずから別個の問題であるといわなければならない。仮登記担保権者は、同法二条の規定により目的物の所有権を取得し、本登記をすべき要件を充足した場合には、仮登記義務者に対して仮登記に基づく本登記手続をすべきことを請求するとともに、仮登記の効力に基づき後順位抵当権者等に対し、本登記を承諾すべきことを請求することができるのであって(仮登記担保法は、このことを前提として、仮登記担保権者の目的物の所有権取得の要件、時期等について特則を設けている。)、このような承諾請求を拒むことができる旨の特段の規定がない限り、後順位抵当権者等は、これに応じなければならないものと解されるところ、仮登記担保法上、同法五条一項の規定による通知が適法にされなかった場合において、後順位抵当権者等がこれを理由に本登記承諾請求を拒むことができるとする規定はない。のみならず、同条三項は、右の通知自体について、通知を受ける者の登記簿上の住所等にあてて発すれば足りるものとし、その到達を要件としていないこと、あるいは、同法四条の物上代位及び同法一二条の競売請求に関する規定が右の通知とは関わりなく規定されていることからすると、右の通知は、後順位抵当権者等がその権利行使をしようとする場合において、その機会を失することのないよう念のためのものとしてすべきものとされていると解される。したがって、仮登記担保権者からの通知が遅れたことにより後順位抵当権者等が損害を受けた場合にその賠償を仮登記担保権者に求めることができるかどうかは別として、通知が遅れたことを理由として後順位抵当権者等が本登記承諾請求を拒むことはできないものというべきである。本件において被控訴人が前認定のように仮登記担保法の定めるところに従い本件土地の所有権を取得したことは明らかであるから、控訴人の前記主張は、その余について判断するまでもなく、理由がない。なお、控訴人が現在に至るまで競売請求をしていないことは当事者間に争いがないのみならず、弁論の全趣旨によれば、仮に清算期間内に通知がされたとしても、控訴人が同法一二条による競売請求をする可能性はなかったものと認められるので、この点からも控訴人の主張は理由がないものというべきである。
三 結語
以上によれば、被控訴人の本件請求は理由があり、これを認容した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 清水湛 裁判官 瀬戸正義 西口元)